act3_悪夢の後
呼び鈴が鳴ったわけではなかった。
だが入浴中だった勝(まさる)は、その時ふと人の気配を感じて妻の名を呼んだ。
沈黙の返答…そして妻が些細なケンカで静岡の実家に帰っていた、という現実を思い出した彼は、悪態をつきながらバスタオルを纏い、細く玄関の扉を開けた。
「…リョーマ…!?」
無残に引き裂かれたユニフォームをぶら下げただけの姿で、リョーマはただ座り込んでいた…
「どうした…?その格好…いったい何があったんだ、リョーマ?」
少年はいつものやんちゃっぷりからは想像もできない沈痛の表情で沈黙を守っていた。
勝はすぐに濡れた服を脱がせ、冷え切ったリョーマの体を大きな手のひらで擦りながら少年をバスルームへ導いた。
勝は純粋な少年サッカー指導者だった。彼にとって、少年はただ少年として、子犬のように愛で、時に躾ける対象であって、いわゆる少年愛の資質や知識はまったく持ち合わせてはいない。
だがそんな彼にとってさえ、少年の体中に残された無数の愛撫の痣、少年の髪に残された不自然な男性用コロンの移り香…
そして、その幼い菊門から流れ出る大量の精液の存在は、不愉快で決定的な真実を明らかにするに十分な印であった。
「嘘だろ…おい?…こんな事…!?」
真実は強烈な眩暈として、また全身を凍てつかせる怒りの波動として、勝の肉体を貫いた。
だのに、今の自分にできるのはただ、怒りで震える不器用な手で、少年の体に残された物質的な汚れを洗い流してやるだけ…。
自らの無力感に吐き気すらおぼえながら、勝は呻き、呟いた。
「…ちくしょう…ちくしょう!…誰が…ドコのどいつが、お前をこんな目に…?
クソッ…くそぉッ!…殺してやる、そいつら探し出して、絶対オレが殺してやる、絶対、絶対ッ…!」
「まさコーチ…」 少年の手が頬に触れて初めて、勝は自分が涙を流している事に気付いた。
「泣かないで、コーチ…。オレ、負けないよ…絶対、あいつらには…負けない…!」
リョーマは子供のままのあどけない輪郭に、哀しいほど大人びた表情を乗せて言った。
「だから…オレを助けて、コーチ!あいつらが…オレの中に遺した、『穢れ』を堕として…!」
少年はいつの間にか勃立していた自らの蕾を見せ付けるように両手を広げ、勝に肢体を預ける。
「オレにはわかるんだ…!いくら『好き』でも、『それ』をできるのは父さんや兄ちゃんじゃない…
まさコーチだけ!だから…」
リョーマの幼い手が、妖艶な手つきで自分の股間を愛撫し始めるのを、勝は唖然と見降ろした。
「オレを助けて…コーチので、あいつらのを全部、洗い流して…!」
勝はただ呆然とリョーマの視線を見つめ返した…本人の意思を裏切って、次第に熱を帯びてゆく自らの象徴に戸惑いを覚えながら…
「でっかいよ…コーチの!オレ、壊れそう…!」
幾度目かの挑戦で、ようやく勝のモノを根元まで受け入れたリョーマは、切なく体を振るわせた。
「大丈夫か、リョーマ?…無理すんなよ、痛かったらやめるぞ?」
「やだ、やめないで…!やっとオレ達、合体できたのに!」
「リョーマ…」
「でっかくても…痛くても、まさコーチのは特別…!おっかないけど、本当はすごく優しい…オレ、ずっと前から大好きだったんだよ、まさコーチの事!」
「……」
「だから今日、まさコーチが褒めてくれて、マジ嬉しかったんだ…! 今日は…オレにとって特別な日だった!…なのに…」
「……」
「動いて…コーチ!オレは平気だから…!…オレの中に、まさコーチのを出して…!そして… オレを、まさコーチのものにして…!お願い…」
その言葉を裏づけるように、リョーマの蕾はすっかり開花し、蜜の雫を零しはじめていた。
勝は少年の促すまま、ゆっくりと動きはじめた…。そして、今や彼の心を占め始めていたリョーマに対する新たなる感情は、少年の初々しい粘膜の快楽以上に勝を遥かなる頂点に誘ってゆく…
そしてその夜、彼らは三度に渡り互いの『印』を、互いの胎内に刻みつけていった…。
「…よし、大丈夫!お母さん、泊まってもいいって!」 「マジで!?やった、まさコーチん家にお泊りだっ!」
ベッドの上で飛び跳ねるリョーマは、すっかりいつもの笑顔を取り戻したかのように見えた。
勝は今だ醒めぬ夢を見続けているような気持ちだった…それを現実のものと認識させる、口内に残された少年の青いミルクの後味さえ無ければ。
(オレは…オレ自身も気付かなかった欲望に流されて、大切なリョーマを抱いてしまった…。
結局は…憎むべき犯罪者共と、同じ過ちを犯しただけじゃないのか…?) そう考えると彼の心は、罪悪感と自らに対する嫌悪感で握り潰されそうに痛んだ。
「ねぇねぇ!コーチ!まさコーチッ、ぎゅっして、ぎゅっ!」
勝にとって唯一の救いは、何よりこのリョーマの笑顔… そしてその瞳に宿る、変わらぬ信頼と愛情の眼差しだった。
青年と少年は全裸のまま抱き合い、どこにでもいる恋人同士のようにキスを交わした。
「守るよ、リョーマ…」 未熟な少年の体が折れそうなくらい、勝はリョーマを固く抱きしめていった。
「決めた…オレ!仕事も、妻も、世間も…何もかも捨てる覚悟を決めた…。
オレは…一生をかけてお前を守っていくよ!愛しい…オレのリョーマ…!」
少年はその抱擁に応えるように、精一杯手足を伸ばし、逞しい青年の背中にしがみつく。
汗ばんだおでこを勝の胸板の間に軽く擦り付けてつぶやいた、そのリョーマの囁きはあまりに小さく、勝の耳には届かなかった。
「違うの…。守るのは……コーチを守るのは、オレの方なんだ…!」
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